2015年11月18日水曜日

鹿児島のあぢもり





    鹿児島のグルメといえば、千日町の名店「あぢもり」の黒豚しゃぶしゃぶ。通称「黒しゃぶ」の味は、詩人の城戸朱理さんや野村喜和夫さん、小説家の柳美里さんや藤沢周さんらから、「いやあ、瑞穂くん、鹿児島といえば、あぢもりだよ」と、百回はきいていた。

    三十代前半で、その話をきいてから、ぼくは鹿児島にゆく機会があっても、あえてあぢもりには立ち寄らなかった。今回、やっと、高岡修さん、山下久代さん、城戸朱理さん、マッドバンビさんとくることができた。残念ながら、和合亮一さんは福島に帰らなければならず、ご一緒できなかった。

   まずは黒豚のバラ肉だけ、特製スープに「花が咲くように」ときいれる。ほとんど、アクがでなかった。最初は肉とスープだけ味わう。肉は花びらのようにやわらかく、じゅわーっと脂が口のなかにひろがる。舌がとろけるような余韻がのこっているうちに、焼酎。

    つぎに、鶏卵をスープに溶き、肉とからめて味わう。写真でみると、スープがすごくきれいでしょう。そして、お肉がつやつや、ぴかぴか、光っているでしょう。以前、東京の和食屋を取材したときに、その店では豚肉に微量の片栗粉をふっていた。和食では基本的な技術。おかしなことじゃない。それで豚肉につやをだすのだが、あぢもりの本物の黒豚は、そんな必要はないのだろう。

    着物姿の山下さんがもつのは、あぢもりのオリジナル焼酎。ほんとうは、店からもちだしてはいけないのだが、今回、お店のご好意で、焼酎がはいったままのボトルを、光栄にもぼくがいただいた。表が西郷さん、裏が大久保さん。その日の記念に、みなさんにマジックで寄せ書きをしてもらおうと思っていたのだけれど、黒しゃぶがあまりに絶品、酒もうまかったので、忘れちゃった。

    さらに黒豚のロース、バラ肉のとんかつ。あぢもりでは「本物の薩摩黒豚」だけをつかっているので肉にかぎりがあるとか。黒豚がなくなれば、営業はおわり。すべて、高岡修さんが、ごちそうしてくださった。

    十一時半ごろ入店してから、午後二時まで、呑み、食い、文学の話。大好きな詩人たち、山下さん、バンビさんとの、鹿児島での饗宴。十年ごしの夢がかなった気分だった。
   ほんとうに、ゆたかな時間だった。

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